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名古屋地方裁判所 昭和37年(ソ)6号 決定 -4915年 11月 16日

抗告人 横地勇助 外三名

相手方 田中栄治

主文

原決定を左のとおり変更する。

抗告人等は、昭和三十八年六月三十日までに、愛知中村簡易裁判所昭和三六年(ハ)第九〇号家屋明渡請求事件の執行力ある和解調書正本に基き、名古屋市中村区牧野町九丁目三十五番地宅地七十三坪四合の仮換地中村一工区十七ブロツク六番宅地五十三坪五合五勺の内東側約十七坪(別紙図面〈省略〉イ、へ、ト、ホ、イを結ぶ囲繞地)の地上に木造瓦葺二階建居宅建坪約十六坪外二階約十六坪を建築せよ。

抗告人等が右期日までに前項債務を履行しないときは、抗告人等は相手方に対し、昭和三十八年七月一日以降右債務履行済に至るまで一ケ月金五万円の割合による金員を支払え。

相手方のその余の申立を棄却する。

本件手続の原審および当審における費用はすべて抗告人等の負担とする。

理由

抗告人等は、「原決定を取消す。相手方の申立を却下する」との裁判を求め、その主張した理由の要旨は、主文掲記の和解調書(以下本件和解調書と称する)第二項表示の債務は代替的債務であり、いわゆる間接強制による強制履行の対象とならないものであり、また抗告人等が右債務を履行しなかつたのは、建築費の支出が他の事情から不可能となつた故で故意に延期しているのではない。しかるに原決定が右債務につき間接強制を認めたのは違法であり、これが取消を求める、というにある。

よつて案ずるに、相手方主張のとおり本件和解調書が成立し、抗告人等に対し相手方のため執行文が付与せられその送達もなされたこと、右和解調書第二項に基き相手方が本件間接強制の申立をなしたことは当裁判所に明らかである。

右和解調書第二項に定められている債務は、抗告人等が主文掲記の建物を昭和三十七年十月十五日までに建築し、これを相手方に賃貸することであるが、これにより抗告人等は第一に右所定の建物を右期日までに建築する義務を負い、第二にこれを本件和解調書により締結された賃貸借契約に従い相手方に使用せしめるため引渡す義務を負うものと認められる。(原審はこの他に抗告人等は右建物を相手方に賃貸する意思表示をする義務も含まれていると解しているが、本件和解調書全体の趣旨よりみるときは、調書成立の際抗告人等と相手方との間で建築完成後の建物につきあらかじめ賃貸借契約が締結されておりその内容が右和解調書第二、三項に表示されていると解すべきである)。

しかして一般的に債務の強制履行の方法として民事訴訟法第七百三十四条に規定されるいわゆる間接強制は、他の強制履行の方法すなわちいわゆる直接強制、代替執行によつて実現不可能な債務についてのみ許されるべきものと解するのが、債権者の権利実現と債務者の人格尊重の理想の最も妥当な調和点をこゝに求めるという趣旨において、他の関係法条の解釈上正当と考えられるところ、右第二の建物引渡の義務は直接強制が可能であるから、間接強制の対象とはならず、この部分につき間接強制を求める相手方の申立は理由がない。しかして右第一の建物建築の義務については、直接強制ができないこと勿論であるが前記和解条項によると建築されるべき建物の設計、費用等につきなんら特定するところがなくただ木造瓦葺二階建居宅であることとその建坪が階上、階下共に約十六坪であることのみが定められているにすぎないのであるから、この範囲で如何なる建物を建築するかにつき、建物所有者となる抗告人等の意思を無視することができず、この意味で代替執行は相当でなく、一方抗告人等がこれを決するときは容易に履行することができるものであるから、この建物建築の義務はその履行が債務者たる抗告人等の意思のみにかゝる債務として間接強制が許されるというべきである。

しかして抗告人等が右債務を未だ履行していないことは抗告人等の認むるところであり、その不履行が抗告人等において建築費の支出が困難となつた故であるとしても、これだけでは強制執行を妨げる理由とならないこと原決定判示のとおりであり、したがつて原決定が右建物建築の債務につき間接強制をなすことを認めたのは相当である。しかしながら、原決定が建築を直ちになすことを命じ、かつ一ケ月金五万円の割合による損害金の支払を原決定をなした日に遡る昭和三十七年十一月四日から債務完了まで命じていることは、右債務の性質上これが執行方法として妥当でない。当裁判所は右建物建築に必要な期間を約四ケ月半と認め、履行期限を昭和三十八年六月三十日と定め、またこれを履行しないとき抗告人等に課する損害金の額は、かゝる損害金支払を命ずるゆえんが不履行によつて生ずる実損害の填補を目的とするものではなくて、債務者に債務を履行せしめる強制手段とするにあることにかんがみ、本件記録に表われた諸事情に照らし、一ケ月金五万円の割合とするを相当と認定し、抗告人等に対し右債務不履行の際は、右期限の翌日である同年七月一日以降右債務履行済に至るまで一ケ月金五万円の割合による損害金の支払を命ずることとする。

よつて当裁判所の判断と一部において異なる原決定を変更し、民事訴訟法第四百十四条、第三百七十八条、第九十六条、第九十三条、第九十二条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 木戸和喜男 松下寿夫 牧野利秋)

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